外国人技能実習制度における「介護」の職種要件とは?
外国人技能実習制度とは、技術あるいは知識を開発途上の国や地域などへ移転し、当該の地域における経済発展を担うとともに、人材育成にも寄与することを目的として1993年に創設された制度です。
さらに2017年11月には、「外国人の技能実習の適正な実務および技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)」の施行によって、新たな制度として再スタートしています。
その際、介護職種も外国人技能実習制度に追加され、以降、介護の現場で外国人技能実習生の受け入れが進んでいます。
外国人技能実習制度についての概要
介護職種における技能実習制度に触れる前に、まずは外国人技能実習制度についてその概要をみておきましょう。
外国人技能実習制度とは
外国人技能実習制度は社員教育を目的としておこなっていた海外現地法人における研修制度の評価が高かったことから、その研修制度をもとに制度として成立しました。
創設以降一貫している点としては「労働力の需給上の調整の手段とはしない」という観点で、発展途上国などの経済発展を促進する「人づくり」に貢献し、国際協力を推進することが趣旨となっています。
このため、外国人技能実習は外国人技能実習生自身が自国で修得が困難な技能に関する修得や習熟および熟達を目指し、その一方で、日本においては国内企業のほか個人事業主などといった実習の実施者とのあいだで雇用関係を結ぶことになっています。また、これらの技能実習実施者は外国人技能時修正の管理と技能実習をおこないます。
そして、技能などの修得に関しては、技能実習計画に基づいて最長で5年間実施されます。
外国人技能実習制度の受け入れ方式
外国人技能実習生を受け入れる場合、その方式には企業単独型と団体監理型の2種類があります。
企業単独型
技能実習の実施にあたり、実習実施者により海外法人の職員らを外国人技能実習生として受け入れる方式が企業単独型です。また、その会社などの範囲は以下の3つです。
- ・日本における公私の機関が外国に置く支店・子会社・合弁会社など。
- ・日本における公私の機関と1年以上、あるいは年間10億円以上の取引があること。
- ・日本における公私の機関と業務上の国際的提携や密接な関係がある機関として法務大臣・および厚生労働大臣が認めていること。
団体監理型
一方、営利を目的としない事業協同組合や商工会といった監理団体が外国人技能実習生を受け入れ、実習実施者管理のもと、技能実習をおこなっていく方式が団体監理型です。この場合、外国人技能実習生となるのは、送り出し国の政府と日本国政府の2国間の取り決めにより、派遣元の企業などから派遣された従業員などで、日本において技能などの修得を目指します。
なお、現在の技能実習における在留者数ベースではこの団体監理型での受け入れが大半を占めています。
外国人技能実習制度における区分と在留資格
外国人技能実習制度の区分は、受け入れ方式および入国からの期間によって在留資格がそれぞれ異なります。また、2年目以降における在留資格の移行については以下のような外国人技能実習生自身が決められた学科および実技試験に合格している必要があります。
在留年数 |
目的 |
企業単独型 |
団体監理型 |
||
---|---|---|---|---|---|
区分 |
在留資格 |
区分 |
在留資格 |
||
1年目 |
技能などを修得 |
第1号 |
技能実習 |
第1号 |
技能実習 |
2・3年目 |
技能などに習熟 |
第2号 |
技能実習 |
第2号 |
技能実習 |
4・5年目 |
技能などに熟達 |
第3号 |
技能実習 |
第3号 |
技能実習 |
介護職種における外国人技能実習制度とは
外国人技能実習制度への介護職種の追加は2015年2月4日、厚生労働省の「外国人介護人材受入れの在り方に関する検討会中間まとめ」での提言の内容を踏まえ、決定されました。また、この提言は日本国内における急速な高齢化の進展を考慮した結果、追加も検討され、受入れについて基本的な考え方を示したものです。
一方、日本の介護技術を参考に、この制度を取り入れようとする海外動向もあり、日本の介護技術を海外に伝えることは国際的にも意義があるとされています。
技能実習制度における介護職種の基本的な考え方
2015年2月時点の「外国人による介護人材の受入れの在り方に関する検討会中間まとめ」における提言内容では、次の3つの要件への対応ができるよう、制度設計がおこなわれています。
- ・介護における業務が「外国人でも簡単に担うことができる単純な仕事」という印象を与えないようにすること。
- ・介護職種にかかわる外国人の処遇としては日本人と同様適切なもので、労働環境などについての改善の努力が損なわれていないこと。
- ・介護におけるサービスの質を担保し、利用者に対して不安を与えないようにすること。
技能実習制度における介護職種の要件
外国人技能実習制度全般の要件のほかに、介護職種については固有の要件があります。また、当該要件は外国人技能実習生および実習実施者関連のほか、技能実習自体の内容に関しても規定されています。
外国人技能実習生側についての要件
外国人技能実習制度における実習生について介護職種では、以下のとおり各要件の設定があります。
基本的要件
外国人技能実習生側の基本的要件は、介護職種も外国人技能実習制度全般の要件を踏襲します。
- ・年齢が18歳に達していること。
- ・技能実習をおこなう実習生は制度の趣旨を理解していること。
- ・自国へ帰国後は修得した技能を活かした業務に従事すること、またその予定があること。
- ・実習生として従事する業務は外国で従事した経験があること。あるいは従事に必要となる特別な事情があること(この特別な事情とは教育機関において同種の業務に関して見込みを含む教育課程を修了していること)。
- ・自国の公的機関より推薦を受けていること。
- ・過去に同様の段階の技能実習をおこなったことがないこと。
- ・技能実習の実施にあたり、必要な最低限度の訓練を受け、かつその理由について具体的に説明できること。
- ・実習実施者をはじめとして、監理団体および送り出しの機関が技術的協力をおこなううえで必要と認めてられていること。
日本語能力についての要件
技能実習をおこなう外国人技能実習生は、日本語能力も一定水準に達していなければなりません。これは、技能実習の指導員や介護サービスの利用者などともコミュニケーションを円滑に図る必要があるためで、介護職種特有の要件としては次のように規定されています。
年数 |
区分 |
日本語能力試験 |
---|---|---|
1年目 |
第1号技能実習 |
N4への合格 |
2年目 |
第2号技能実習 |
N3相当 |
日本語能力試験N4とは基本的な日本語が理解できる程度の日本語能力です。そして、N3とは日常的に用いられる日本語をある程度理解できる日本語能力となります。ただし、3年目以降についてはN3程度の要件を満たせない場合でも、事業所において日本語を学ばせることを条件に在留が可能となります。
職歴要件
介護職種における外国人技能実習制度にて、団体監理型を選択しておこなう技能実習では、前職に関しても要件を満たさなければなりません。
- ・日本国外において介護施設もしくは居宅などにおいて、高齢者あるいは障がい者の日常生活や療養上の世話や機能訓練などをおこなう業務に従事したことがあること。
- ・日本国外において看護課程を修了しているか、あるいは看護師資格を有していること。
- ・外国政府によって介護士の認定などを受けていること。
実習実施者側の要件
続いて、外国人技能実習生を受け入れる側である実習実施者の要件は介護職種では、以下のようになります。
基本的要件
実習実施者側についても基本的要件については、介護職種でも外国人技能実習制度全般の要件を踏襲します。
- ・技能実習の実施者についてはその申請者、および常勤の役員、職員などであること。
- ・技能実習指導員、生活指導員に加え、技能実習に携わる職員について管理ができること。
- ・過去3年以内において法務大臣および厚生労働大臣が告示のうえ定めている講習を修了した者が技能実習責任者として選任されていること。
- ・技能実習の指導を担当する者は1名以上が事業所に所属する申請者あるいは常勤の役員、もしくは職員で、5年以上の経験を有していること。
- ・常勤の役員のほか職員から生活指導員を1名以上を選んでいること。
- ・技能実習生の受け入れにあたっては、その人数の上限を超えていないこと。
技能実習指導員についての要件
事業所に配置する技能実習指導員については、介護職種の場合、1名以上は介護福祉士の資格を有しているか、看護師をはじめ介護福祉士などと同等、またはそれ以上の専門的な知識、さらには技能・技術を有していなければなりません。また、外国人技能実習生5名に対し、技能実習指導員についても1名以上を選ぶ必要があります。
これは介護職種固有の要件です。
事業所における体制についての要件
技能実習をおこなう事業所については、介護職種では以下のように要件が定められています。
- ・介護などの業務をおこなっていること。ただし、利用者の居宅でサービスを提供する場合を除く(適切な指導体制が確保できないと判断されるため)。
- ・開設から3年以上の期間が経過していること。
- ・夜勤・少人数での業務・緊急の業務を行わせる場合には利用者の安全確保に必要となる措置を講じていること。
- ・技能実習生が従事する業務は昼・夜に関わらず、利用者の安全確保と指導が必要と認められる範囲内で介護職員を同時に配置すること。
受け入れる技能実習生の人数についての要件
受け入れが可能な外国人技能実習生の人数は、主な業務について介護に関わる常勤職員(常勤介護職員)の総数によって決定します。
団体監理型 |
||
---|---|---|
常勤介護職員の総数 |
第1号技能実習 |
第1号技能実習および |
1人 |
1人 |
1人 |
2人 |
1人 |
2人 |
3人~10人 |
1人 |
3人 |
11人~20人 |
2人 |
6人 |
21人~30人 |
3人 |
9人 |
31人~40人 |
4人 |
12人 |
41人~50人 |
5人 |
15人 |
51人~71人 |
6人 |
18人 |
72人~100人 |
6人 |
18人 |
101人~119人 |
10人 |
30人 |
120人~200人 |
10人 |
30人 |
201人~300人 |
15人 |
45人 |
301人~ |
常勤介護職員の |
常勤介護職員の |
企業単独型 |
||
常勤介護職員の |
常勤介護職員の |
企業単独型 |
|
---|---|
第1号技能実習 |
第1号技能実習および |
常勤介護職員の |
常勤介護職員の |
このほか、優良な実習実施者の要件を満たしている場合は、上記の人数よりも多くの外国人技能実習生を受け入れることが可能です。ただし、事業所に配置されている常勤介護職員の総数を超えた人数の受け入れはできません。
技能実習における講習の内容についての要件
介護職種で実際におこなわれる技能実習のなかでは、一定期間、外国人技能実習生に対し各種講習をおこなうことも要件として定められています。
入国後の講習
日本に入国後の外国人技能実習生に対し、介護職種について一定期間おこなわれる各種講習の内容は以下のとおりです。
- ・日本語
- ・本邦における生活一般にかかわる知識
- ・技能実習生に関する法的保護に必要となる情報
- ・介護導入講習(円滑な技能などを修得するために必要な知識)
これら入国後の講習は、技能実習制度本体の要件として、第1号技能実習の予定時間の全体に対して6分の1以上の時間数を実施しなければなりません。ただし、1か月以上の期間あるいは160時間以上の入国前講習を実施していれば、第1号技能実習の予定時間全体の12分の1以上へと短縮することが可能です。
講習をおこなう講師について
入国後の講習では、「日本語」と「介護導入講習」の講師については要件が定められています。
日本語 |
・大学あるいは大学院において日本語教育課程を履修しており、卒業あるいは修了している者 |
---|---|
介護導入講習 |
・介護領域の講義について教授の経験がある介護福祉士養成施設教員 |
受け入れをおこなう監理団体についての要件
介護職種では、受け入れの大半を占めている団体監理型において、実際に受け入れをおこなう監理団体についても要件を満たさなければなりません。
法人としての形態について
受け入れをおこなう監理団体は法人として、下記のいずれかであることが必要です。
- ・商工会議所および商工会・中小企業団体・職業訓練法人・公益社団法人あるいは公益財団法人(ただしこのうち商工会議所・商工会・中小企業団体については被実習監理者となる介護職種の実習実施者が組合員か会員であること)。
- ・介護事業の発展などを目的とし、かつ全国的に医療あるいは介護事業者によって構成されている団体(またはその支部)。
技能実習計画に関する作成について
技術あるいは知識などの移転を目的としている技能実習制度では、監理団体が技能移転の対象項目ごとに詳細な技能実習計画も作成しなければなりません。なお、技能実習計画の作成は厚生労働省の審査基準とモデル例に沿っておこないます。
また、介護職種については、適切で効果的に技能などを外国人技能実習生が修得できるよう、介護福祉士あるいは看護士といった一定の専門性を持つ者がおこなわなければなりません。
そのため、監理団体においては5年以上介護職に従事した経験をもつ介護福祉士や看護師などが在籍していることも要件となります。
優良な監理団体の要件について
監理団体は外国人技能実習生を受け入れる窓口となることから、よりスムーズにおこなえるよう、要件を満たした場合は優良な監理団体に認定されます。
その要件は以下の2点です。
- 1.介護職種における団体監理型技能実習についての実施状況や監査、その他の業務がおこなわれる体制
- 2.介護職種における技能等の修得等に係る実績
これらは各項目が点数化されており、各40点の合計80点が配点されます。また、特典が6割を超えると、優良な監理団体と認められる基準に適合します。
受け入れの流れ
では具体的に、外国人技能実習生はどのような流れで受け入れればよいのでしょう。ここでは受け入れの割合が大きな団体監理型で詳しくみていきます。
申し込み
外国人技能実習生を受け入れようとする企業や個人事業主は、監理団体へ申し込みをおこないます。この時点では、同時に雇用条件確認書のほか、就業カレンダー、寮および宿泊施設に関する住所や間取りといった書類が必要となります。
募集
企業や個人事業主から申し込みを受け付けた監理団体は、提携している現地の送り出し機関から実習を希望する外国人を募集します。
面接
受け入れを希望した企業や個人事業主は、事前の書類選考を経て実習を希望する外国人に対し面接をおこないます。その方法は現地面接やオンライン面接などさまざまで、必要に応じて実習を希望する外国人の家族とも面談し、希望者側の不安などの解消に努めます。
決定
受け入れが決定したら、実習計画と外国人技能実習生の在留資格の申請をおこないます。
講習
受け入れが決定した外国人技能実習生については、一定期間、各種講習が必要です。また詳細については上記のとおりです。
実習の実施
所定の研修や講習の修了後、受け入れをおこなった企業や個人事業主は外国人技能実習生が円滑に知識が修得できるよう、監理団体の支援を受けながら実習を実施します。
注意点
ここまで、介護職種における外国人技能実習制度についてみてきましたが、受け入れにあたっては受け入れ側と実習生側でトラブルなどが起こらないよう、次のような点に注意が必要です。
受け入れ体制を整備しておく
外国人技能実習生の受け入れにあたって、受け入れ側では規定の指導員などを配置するのはもちろんのこと、技能の修得という制度の趣旨を理解し、実習事業所の協力体制を構築する必要があります。そのため、職場全体で計画的に指導がおこなえるよう、育成プログラムを作成するなどし、外国人技能実習生のサポートをおこなわなければなりません。
実習環境を整備しておく
外国人技能実習生については日本語能力試験N4相当以上の日本語レベルを習得しているとされますが、日常の業務においては十分に意思疎通できない場合もあります。そこで、母国語のメモやマニュアルの整備
翻訳アプリや機器などの導入も検討し、実習環境の整備をおこなうとよいでしょう。
特に介護分野では専門用語などが多いため、用語の理解が進むような研修の実施も有効です。
生活環境を整備しておく
外国人技能実習生において、特に重要なのは生活環境の整備です。宿舎を提供し、環境を整えておくことはもちろんのこと、宗教や生活習慣の違いなども考慮しておく必要があります。
また、宿舎として一般賃貸物件を利用する場合、自治会や民生委員、近隣住民などに外国人技能実習生をあらかじめ紹介しておくと、思いがけないトラブルを未然に防げます。
まとめ
外国人技能実習制度は少子高齢化によって問題となっている日本における人材不足を補うことができ、さらに外国人技能実習生の母国に対しても技術支援がおこなえる、どちらにとってもありがたい制度です。制度の趣旨を理解し、ルールを守って正しく活用することで、介護分野においてもサービスの向上や、スタッフの負担軽減などが期待できるでしょう。
この記事の監修者
プロフィール
2009年4月 行政書士個人事務所を開業
2012年8月 個人事務所を行政書士法人化し「さむらい行政書士法人」を設立
専門分野
外国人VISA・在留資格、外国人雇用・経営管理、永住・帰化申請
入管業務を専門とし、年間1000件以上の相談に対応
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「さむらい行政書士法人」は特定技能ビザなどの入管申請を専門とする行政書士法人です。特定技能ビザ申請のアウトソーシングや、特定技能支援計画の作成支援と支援計画の運用サポートも行っております。
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