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遺産分割協議書で事実上の相続放棄をする方法

相続手続きの際、自分は亡くなった人の財産を相続するつもりはなく、相続放棄を考えておられる方もいるかと思います。

ただ、相続放棄は家庭裁判所での手続きで、期限内に様々な書類を集めて提出する必要がありますから、自分ですべてやるのはなかなか大変だと思います。また、裁判手続きは弁護士でなければ代行できません。そこで、ここでは裁判手続きによらない、遺産分割協議書を使った「事実上の相続放棄」について解説をしていきます。

事実上の相続放棄ってなに?

相続を放棄したいと考える要因はいくつかあるかと思いますが、今回は、以下の図のようなケースを想定します。

 

亡くなった人の法務太郎さんには、土地建物と銀行預貯金の財産があり、奥さんと子供2人がいます。相続人は妻・子2人の3人です。このとき、子供2人は「自分たちは財産を相続せずに、お母さんに全て相続させてあげたい」と考えたとしましょう。そうすると、土地建物も預貯金も奧さんの法務花子さんが相続することになります。

 

【法務局の相続関係説明図 記載例】
(引用元:http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001207252.pdf

 

そこで、子供たちはお母さんに全て相続してもらうため、家庭裁判所で相続放棄をしました。

すると、法務一郎さんや法務貴子さんに子がいると、その子に相続権が移ってしまいます。

子がいない場合でも亡くなった法務太郎さんの親が存命の場合は、そちらに相続権が移ってしまうため、一郎さんや貴子さんはお母さんの花子さんに全て相続してもらいたいと思っていたとしても、新たに相続人になった人がそう思わない場合は、改めて遺産分割協議をしなければなりません。

 

そのため、裁判所での相続放棄を行わず、妻・花子さん、長男・一郎さん、長女・貴子さんの間で遺産分割協議を行い、一郎さん、花子さんの相続分は0として、全ての財産を花子さんが相続することで合意した書面を作成すれば、「事実上」相続放棄したことになります。

 

この内容で、遺産分割協議書の実例を見てみましょう。

 

 

 

遺産分割協議書(例)

 

 

被相続人法務太郎(令和元年6月20日死亡)の相続財産について、被相続人の相続人全員は、協議の結果以下の通り分割することに合意する。

 

第1条(土地・建物)

相続人法務花子は以下の土地・建物を取得する。

【土地】

所   在  東京都台東区〇〇町〇丁目

地   番  000番

地   目  宅地

地   積  500.00㎡ 

 

【建物】

所   在  東京都台東区〇〇町〇丁目

家屋番号   123番

種   類  木造

構   造  瓦葺2階建

床 面 積  1階  100.00㎡

       2階   50.00㎡ 

 

第2条(預貯金)

相続人法務花子は以下の預貯金を取得する。

【預貯金】

1.○○銀行○支店  普通預金  口座番号00000000 

2.○○銀行○支店  定期預金  口座番号00000000 

3.××銀行×支店  普通預金  口座番号00000000

4.△信用金庫△支店 普通預金  口座番号00000000

 

第3条(その他)

本協議書に定めのない相続財産は、相続人法務花子が取得する。

 

上記のとおり、相続人全員による遺産分割協議が成立したことを証するため、本協議書を3通作成し、署名押印のうえ、各自1通ずつ所持する。

令和元年6月30日

 

住所

氏名 法務花子      実印

 

住所 

氏名 法務一郎      実印

 

住所

氏名 法務貴子      実印

 

このように、一郎さん、貴子さんの相続する財産はなく、全ての財産を花子さんが相続する内容で作成することで、事実上の相続放棄ができます。

注意点は?

遺産分割協議書を使った事実上の相続放棄は、あくまでも事実上の相続放棄です。

実は亡くなった人に膨大な借金があることを知らなかった、というような場合は、財産を相続していない子供2人も債権者から請求される可能性がありますので、明らかに借金が多い場合や、財産より借金が多いかどうかわからない場合は、借金を負わないためにきちんと裁判所で相続放棄の手続きを行ってください。

 

 いかがでしたでしょうか。遺産分割協議書を使った事実上の相続放棄について見てきましたが、もし自分で遺産分割協議書を作成するのが難しいと思う場合は、行政書士等の専門家に依頼すると、代わりに作成してもらうことができます。なお、裁判所の手続きは弁護士又は司法書士でなければ代行できません。また、遺産分割協議書を作成する上では、亡くなった人の戸籍謄本を、生まれてから現在まですべて取得し、相続人情報を特定して作成することが前提になります。自分で戸籍謄本をさかのぼって取るのが難しいと思った場合も、専門家に依頼することで代わりに取得してもらえたり、相続手続きを任せたりすることもできます。依頼するための費用は数万円程度かかりますが、相続する金額やかかる時間、そもそも自分自身できるのかどうか等の要素を比較しながら、利用を検討してみてください。