公正証書遺言書でも無効になるケースはある?
公正証書遺言が無効になることってあるのだろうか?と疑問に思っている人も多いのではないでしょうか。
実際に公正証書遺言が無効になったらどうしよう、と不安に思っている方のために、今回は公正証書遺言書でも無効になるケースはあるのかについてご説明していきたいと思います。
結論からいいますと、次の3つのケースでは無効になります。
①遺言能力がない場合
②証人の要件を満たしていない人が証人になっている場合
③詐欺や脅迫などで遺言書が作成された場合
1、そもそも公正証書遺言とは
そもそも公正証書遺言とは、簡単にいいますと公証役場で作成された遺言書のことになります。公証役場では公正証書という形で作成され、遺言書の信ぴょう性や有効性が保証されているものになります。
遺言書には、次の3つの形が存在します。
・自分で作成(自筆のみ、PC等は不可)して自分で保管する「自筆証書遺言」
・自分で作成して、公証人に遺言書を作成したという事実を証明してもらう「秘密証書遺言」
・公証人が作成して公証役場で保管する「公正証書遺言」
この中でも公正証書遺言は、原本を公証役場で保管してもらえるので、紛失する可能性がありませんし、偽造されたり作り変えられたりするおそれもなくなります。自筆証書遺言や秘密証書遺言は、そもそも法律的に正しく作成されていないことが多くて無効になりやすいですし、相続人が隠してしまったり、破棄されてしまうことも残念ながらあるので、それと比べると公正証書遺言には強力な効果があるものになります。
2、公正証書遺言でも無効になる!
公正証書遺言でも無効になるケースがあるんです。それは次の3つのケースです。
①遺言能力がない場合
遺言能力がない人が残した遺言は無効となります。遺言能力とは、遺言の内容を理解して判断できる能力のことをいいます。15歳未満の方や認知症などで意思能力がない方は遺言能力がないと判断されるので、遺言書を作成することはできません。後に問題が発生するケース(無効なのかを争うケース)とは、認知症などで遺言作成時に意思能力がなかったというケースになります。
意思能力とは、一般的には7~10歳程度の知力があることとされていますが、やはりケースバイケースであり、遺言作成時にはどの程度に知力があったのかというのは難しい判断となりえます。公証人も、この遺言能力に疑いがあるような場合では質疑応答などをおこなったりしますが、必ずしも公正証書遺言の作成を拒否するわけではありません。よって、後に公正証書遺言が有効なのか無効なのかという問題が生じることがあるのです。
認知症の方でも通常は意思能力がない状態ですが、一時回復するときがある人もいます。その際には公正証書遺言として残すことができますが、これは次の3つ要素で判断されます。
・遺言時の意思能力の回復の程度
これは、精神医学的な側面と行動観察的側面から判断されます。精神医学的側面とは、主として「長谷川式認知症スケール」というもので判断されることが多いです。長谷川式認知症スケールとは、点数に応じて、下記の通り認知症の度合いを簡易的に診断できるものとなります。
20点以上 |
異常なし |
---|---|
16~19点 |
認知症の疑いあり |
11~15点 |
中程度の認知症 |
5~10点 |
やや高度の認知症 |
4点以下 |
高度の認知症 |
長谷川式認知症スケールによる診断の際には、下記の名古屋医師会が作成したシートがわかりやすいものとなっております。
【 シートはこちらから 】
大まかな目安として、15点以下のケースでは遺言能力に疑いが生じ、10点以下の場合では遺言能力はないとすることが多いですが、ケースバイケースになり、裁判例でも15点で無効になったものから4点でも有効になったケースまであります。
つぎに行動観察的側面ですが、これは医療記録や看護記録・介護記録・作成者である公証人などの供述から遺言者の当時の行動などから遺言能力を判断するものとなります。
・遺言の内容と複雑性
認知症の程度が大きくても、遺言の内容が単純であれば認められやすいですし、認知症の程度が小さくても、遺言内容が複雑であれば認められにくくなる、というものです。
・遺言の動機や理由、遺言に至る経緯
これは、例えば配偶者や同居人でもなく、はたまた親族関係も交流関係もない人に全財産を渡す、などとしているようなケースです。このような内容の遺言にする動機や理由がないことや、遺言に至る経緯も不自然であるので、遺言能力に疑問が生じるのは当然です。
②証人の要件を満たしていない人が証人になっている場合
公正証書遺言を作成する場合には証人が2人必要となりますが、下記に該当する人は証人となることができません。
・未成年
・法律的に最優先順位の相続人及び受遺者、これらの配偶者と直系血族
・公証人の配偶者、4親等以内の親族、書記や使用人
これらに該当する人が証人となって作成された公正証書遺言は無効となりますので注意が必要です。証人は親族関係がない第三者が1番いいですね!
③詐欺や脅迫などで遺言書が作成された場合
これはもう読んで字のごとくです。これで作成されたものは、どんな内容であろうが無効です。ただし、遺言者の亡くなった後に、詐欺や脅迫があったことを立証することは、よほど明確な証拠がないかぎり難しいともいえます。
いかがでしたでしょうか。今回は、公正証書遺言書でも無効になるケースはあるのかについてご説明させていただきました。公正証書遺言を作成しても無効になる可能性は少ないながらございます。しかし、遺言書の中では1番確実なものでもありますので、やはり遺言書を作成する場合には公正証書遺言にすることが安全です。
どのような形であっても、遺言書を作成するような場合には、行政書士等専門家のサポートを受けることで手続きを円滑に、確実に進めることができます。依頼するための費用は本人の財産によって数万円~数十万円程度かかりますが、自分自身でする場合の時間や手間、そもそも自分自身できるのかどうか等の要素を比較しながら、利用を検討してみてください。