技能実習生の給与体系と相場について
「求人をかけても全然人が来てくれない。そうだ、人件費も安い外国人を雇おう!」
このような『外国人は安い給与で雇うことができる』という考えを耳にした方もいるかもしれませんが、外国人を安い給与で雇い入れることは認められていません。
では、技能実習生にはどのくらいの給与を支払えばよいでしょうか。
今回は技能実習生の給与体系と相場について解説します。
1.技能実習制度とは
外国人技能実習制度は、日本が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的としています。
したがって、技能実習制度は、安い給与で外国人を雇い、労働力不足を解消するということは認められないのです。
2.技能実習生の給与体系
(1)最低賃金
技能実習生を時給400円で働かせていたなどといったニュースが今でもあります。しかし、技能実習生も日本人労働者同様に、労働関係法令で保護されています。したがって、最低賃金以上の給料を支払う必要があります。アジア諸国よりも日本の方が給与が高いからと言って、国籍による違い設けてはいけません。
また、技能実習生本人が、最低賃金以下の給与に同意していたとしても、その同意は無効になるので注意してください。
最低賃金は、地域別のものと、産業別のものがありますが、2つのうち高い方の賃金以上を支払う必要があります。最低賃金は土地の物価によって変動します。そのため、就労する都道府県によって適正額が変わり、この地域別の最低賃金は、毎年10月1日に改定されます。
技能実習生が最も多い愛知県を例にとって見てみましょう。
愛知で製鉄関連の技能実習をする場合は、地域別の最低賃金は、令和元年度で時給926円です。他方、特定最低賃金は製鉄業だと時給975円となり、特定最低賃金の方が高くなっています。したがって、製鉄関連で愛知県で働いてもらう場合は、時給975円以上になるように給与を設定する必要があります。
この最低賃金を下回ると技能実習生の受け入れが停止になるので、毎年最低賃金を確認し、ミスがないよう注意しましょう。最低賃金を下回る時給で働かせていた場合は、最低賃金法違反で罰せられます。
(2)割増賃金
技能実習生も日本人労働者同様に、時間外や休日に働いてもらう場合には労働基準法による割増賃金を支払う必要があります。
・法定労働時間を超える労働には、基本給の25%以上の割増賃金を支払う必要があります。
・深夜(22時から午前5時)の業務に対しては、同じく基本給の25%以上の割増賃金を支払う必要があります。
・週に1回も休まないか4週間に4回以上休ませない場合は、休日労働に対して基本給の35%以上の割増賃金を支払う必要があります。
(3)支払い
支払いは、①通貨で、②直接技能実習生に、③その全額を支払わなければなりません。また、賃金は、④毎月1回以上、⑤一定の期日を定めて支払わなければなりません。
通貨払いの例外
技能実習生の同意を得れば、金融機関の預貯金口座に振り込むことができます。
全額払いの例外
①法令に別段の定めがある場合(税金、社会保険料等)、及び、
②労使協定が締結されている場合(寮費や食費等)は賃金から控除することができます。
当然のことですが、賃金は雇用条件書に記載した額以上の額(就業規則・賃金規則に定められたもの)を支払ってください。
また、使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、次の事項を賃金の支払いのつど遅滞なく記入しなければなりません。また、賃金台帳は3年間保存しなければなりません。
・氏名 ・性別 ・賃金計算期間 ・労働日数 ・労働時間数
・時間外労働時間数、休日労働時間数及び深夜労働時間数
・基本給、手当その他賃金の種類ごとにその額
・賃金の一部を控除した場合には、その額
3.技能実習生の給与相場について
技能実習生の給与分布は、15~20万円の層が一番多くなっています。就業場所や、就業職種によっても変わってきますが、2019年の調査では平均賃金相場は15万6900円でした。
ただ、2011年では、平均賃金相場は12万円台だったので、最低賃金の上昇に伴い、技能実習生の賃金も増加傾向にあります。
この賃金相場をみると、技能実習生と同じ年代(25~29歳)の全労働者の平均相場が24万円なので、安く雇えると思えるかもしれません。しかし、地域や職種が異なるので、安いとは一概には言えないのかもしれません。
もちろん同じ職場で、同じ作業をしている日本人がいる場合は、その日本人と同等以上の賃金にする必要があることに留意する必要があります。
近年は、中国などの近隣諸国が目覚ましい発展をしており、日本での技能実習にはかつてほどの魅力がなくなってきました。外国人を「安価な労働力」と考えたままでいると、技能実習生として来日してくる外国人は減少していくことでしょう。
そのようなことにならないよう、外国人労働者への待遇をおろそかにしないことが大切です。
この記事の監修者
プロフィール
2009年4月 行政書士個人事務所を開業
2012年8月 個人事務所を行政書士法人化し「さむらい行政書士法人」を設立
専門分野
外国人VISA・在留資格、外国人雇用・経営管理、永住・帰化申請
入管業務を専門とし、年間1000件以上の相談に対応