技能実習生に対する賃金未払いで逮捕者続出??
1.逮捕事例
岐阜労働基準監督署は、中国人技能実習生に未払い賃金があったなどとして、最低賃金法違反などの疑いで岐阜市の縫製業社長を逮捕した。
中国人技能実習生に賃金を適切に支払わず、労基署の調査も妨害したとして、労働基準監督署は、最低賃金法と労働基準法違反容疑で、縫製会社社長、技能実習生受け入れ事務コンサルタント両容疑者を逮捕した。
外国人技能実習生に対して賃金の未払いがあったとして、出入国在留管理庁と厚生労働省が技能実習適正化法に基づき、徳島県の繊維機械部品メーカーの技能実習計画認定を取り消した。同社は5年間、実習生を受け入れられない。
同社などによると、17年9月~18年7月、機械加工作業に従事したベトナム人実習生23人に、機械器具製造など一部業種に適用される特定最低賃金(17年は時給840~877円)ではなく、一般の最低賃金(740円)を基準に給与を支払った。
同社副社長は「最低賃金の適用基準に対する認識不足があった。監督署や実習生には迷惑を掛けた」と話した。
このように技能実習生に対する賃金未払いで逮捕者が続出しています。
逮捕され、懲役または罰金刑が科されるだけでなく、技能実習計画認定の取り消し、5年間の実習生受け入れ禁止といったペナルティーも科されてしまいます。
賃金未払いで逮捕される理由としては、最低賃金法違反や時間外の割増賃金を支払わなかった労働基準法違反が多く見受けられます。
2つ目の事例では、労基署の調査も妨害しているので、かなり悪質ですが、3つ目の事例では、最低賃金の適用基準に対しての認識不足が原因でした。
認識不足という理由でも、逮捕・認定取り消し・技能実習生受入れ停止のペナルティーが科されますので、「知らなかった」では済まされません。
技能実習生の賃金について、注意すべきポイントを見てみましょう。
2.最低賃金
最低賃金は、地域別のものと、産業別のものがありますが、2つのうち高い方の賃金以上を支払う必要があります。最低賃金は土地の物価によって変動します。そのため、就労する都道府県によって適正額が変わり、この地域別の最低賃金は、毎年10月1日に改定されます。
上記の3つ目の事例では、機械器具製造など一部業種に適用される特定最低賃金ではなく、一般の最低賃金を基準に給与を支払ったことによって、賃金未払いになっています。
特定最低賃金が適用される業種の場合は、特定最低賃金の方が、通常高く設定されているので、提要業種なのかのチェックは怠らないようにしましょう。
3.割増賃金
割増賃金が発生する場合もあるので、注意してください。
技能実習生も日本人労働者同様に、時間外や休日に働いてもらう場合には労働基準法による割増賃金を支払う必要があります。
割増賃金の支払いが必要な場合の割増賃金率
① 時間外労働 法定労働時間を超えて労働させた場合 25%以上
② 休日労働 法定休日に労働させた場合 35%以上
③ 深夜労働 深夜時間帯(午後10時から午前5時まで)に労働させた場合 25%以上
④ 時間外労働が深夜時間帯に及んだ場合(時間外労働+深夜労働) 50%以上
⑤ 休日労働が深夜時間帯に及んだ場合 (休日労働+深夜労働) 60%以上
最低賃金同様に、この基準に違反した場合は、賃金未払いのペナルティーが科されます。
4.技能実習生の給与相場について
技能実習生への給与の実際の相場を見てみましょう。
技能実習生の給与分布は、15~20万円の層が一番多くなっています。就業場所や、就業職種によっても変わってきますが、2019年の調査では平均賃金相場は15万6900円でした。
ただ、2011年では、平均賃金相場は12万円台だったので、最低賃金の上昇に伴い、技能実習生の賃金も増加傾向にあります。
相場からすると、多くの企業が最低賃金で給与を支払っているようです。
5.最低賃金でも大丈夫だが危険
最低賃金でしっかり支払っていれば、法律上問題はありませんが、毎年改定される最低賃金をチェックし、特定最低賃金の基準もクリアしなければなりません。
違反になった場合のリスクを考えれば、最低賃金ギリギリを支払うのではなく、少し多めに時給計算した方がよいでしょう。
また、最低賃金での給与では、最低賃金法等の問題はクリアできても、近年は別の問題が生じてきています。
それは、競合の問題です。
近年は、中国などの近隣諸国が目覚ましい発展をしており、最低賃金の上昇率も高くなっています。また、技能実習生として最も多く来日するベトナムは、わずか5年で最低賃金が1.5倍以上になっており、日本での技能実習にはかつてほどの魅力がなくなっています。
同時にSNSを通じて、一部の日本の過酷な労働状況が拡散されており、外国人を「安価な労働力」と考えたままで、最低賃金以上は支払わないというスタンスでいると、技能実習生として来日してくる外国人は減少していくことでしょう。
そのようなことにならないよう、外国人労働者への待遇をおろそかにしないことが大切です。
この記事の監修者
プロフィール
2009年4月 行政書士個人事務所を開業
2012年8月 個人事務所を行政書士法人化し「さむらい行政書士法人」を設立
専門分野
外国人VISA・在留資格、外国人雇用・経営管理、永住・帰化申請
入管業務を専門とし、年間1000件以上の相談に対応