死後事務委任と遺言執行の違い
自分が亡くなった後のことを考えて、財産の分配方法をあらかじめ指定しておくのが「遺言」ですが、自分が亡くなった後の葬儀場での手続きや役所の手続をあらかじめ依頼しておきたいと考えたときは、「死後事務委任」という方法があります。
ここでは、死後事務委任と遺言執行の違いについてお答えしていきます。
二つの制度の大きな違いは、遺言執行は相続財産についてのみ行われ、死後事務委任は相続財産以外の事務手続き(葬儀場とのやり取りや、役所への死亡届提出等)について行われるということです。以下で、それぞれの制度について詳しくみていきましょう。
遺言執行とは?
遺言執行とは、亡くなった方の代わりに遺言書に記載されている内容を実現する人(遺言執行者)が、遺言書通りに相続手続きを行うことを言います。
この遺言執行者を選任しなくても、遺言が無効になるわけではなく、効力は変わりません。
ただ、遺言を遺す人は、「きちんと遺言の内容通りに相続手続きしてくれるだろうか?」と不安になるものです。そこで、代表者として遺言執行者を選任しておくことで、執行者には義務が生じますので、遺言通りに手続きをしてくれる可能性が高くなります。
遺言執行者の行うこと
遺言執行者は、「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と定められており、相続財産についての手続を行うこととなります。
実際には、次のようなことを遅滞なく行わなければなりません。
①相続人の調査
②相続財産の調査並びに相続財産目録の作成
③各種相続財産の名義変更等の手続(銀行や法務局等)
死後事務委任とは?
死後事務委任とは、死後の事務手続きについて任せたいと思った委任者が、手続きを行ってくれる受任者との間で生前にあらかじめ契約しておくことをいいます。
契約なので、自分の死後に行ってほしい事務手続きを依頼すれば良いのですが、例えば以下のような内容を契約書に盛り込むことが考えられます。
①親族等、関係者への死亡の通知
②役所への届出(死亡届、戸籍、年金の資格抹消等)
③葬儀に関する手続き
④埋葬に関する手続き
⑤住居の管理手続き
⑥各種サービスの解約・精算手続き
⑦運転免許証の返納手続き
⑧ペットの引き渡し
このように、死後事務委任契約は自分が亡くなった後に気になる手続きがあれば自由に依頼しておくことができます。最近では故人が開設していたブログやSNSの閉鎖手続き、告知なども死後事務委任に入ることがあるかもしれません。
死後事務委任契約作成上のポイント
ポイント① 相続財産については対応できない
死後事務委任契約は、自分の死後に行ってほしいことを自由に決めておくことができますが、相続財産については対象外です。「〇〇さんに土地建物を相続させる手続きをしてほしい」とか、「□□さんに銀行預貯金を相続させる名義変更手続きをしてほしい」といったことを死後事務委任契約に盛り込んでおいたとしても、受任者がこれを行うことはできません。
相続財産についての死後の取り決めをしておきたいときは、死後事務委任契約書の他に遺言書を作成し、遺言執行者を決めておくようにしましょう。
ポイント② 専門家への依頼
死後事務委任契約は、そもそも弁護士、司法書士、行政書士等の専門家へ依頼することが想定されています。亡くなった人の家族であれば、葬儀の手続や役所への死亡届出をすることは当然ですので、役所にわざわざ契約書を提示しなくとも家族であることを証明しさえすれば手続きに応じてくれます。
もっとも、死後事務委任は契約ですので両者の合意があればよく、専門家以外の知人や第三者と契約することもできます。
しかし、専門家以外の人に死後の葬儀手続きを行ってもらうためのお金を預けたり、報酬をあらかじめ支払っておいたりすると、使い込まれてしまう可能性があります。
この点、専門家へ依頼しておけばまずこういったリスクを避けることができますし、死後事務委任についてのきちんとした契約書も作成してもらうことができますので、自分が希望した死後事務手続きを正確に行ってくれる可能性が高いといえるでしょう。
どうしても専門家以外の知人や第三者へ死後事務委任をしたい場合は、少しでもリスクを減らすために死後事務委任契約書を公証役場で公証人の面前で作成してもらう「公正証書」にしておくことをおすすめします。
いかがでしたでしょうか。もし、死後事務委任や遺言執行を依頼したいと考えている場合は、行政書士等の専門家に相談してみると良いでしょう。依頼するための費用と、相続の金額やかかる時間、そもそも自分自身できるのかどうか等の要素を比較しながら、利用を検討してみてください。