フィリピン人と離婚するときに必要な書類と費用について解説
国際結婚したカップルが離婚する場合、日本人同士の離婚よりも手続きは複雑です。離婚制度が認められていないフィリピン人との離婚は特に難しいと感じる方もいるでしょう。フィリピン法では離婚はできませんが、日本法に基づいた離婚は可能です。
日本人とフィリピン人のカップルの場合、フィリピンでは離婚が難しいため日本で手続きをするのが一般的です。
フィリピン人との離婚を考えている人の中には、
「必要書類は?」
「費用は?」
と疑問をお持ちの方も多いでしょう。
この記事では、フィリピン人と離婚する際の必要書類と費用について詳しく解説します。
ぜひ、最後までお読みください。
フィリピン人と離婚はできる?
ここでは、フィリピンの結婚観や制度について見ていきましょう。
フィリピンには離婚という概念がない
フィリピンには、離婚という概念がありません。
フィリピンの家族法では婚姻に関する事項を扱っていますが、離婚のための法律は存在しません。宗教の教えと深く関係していることが、要因として挙げられます。
フィリピンは、東南アジアで唯一のキリスト教国です。外務省のデータによると(フィリピン共和国基礎データ)、国民の83%がカトリック教徒、そのほかのキリスト教徒が10%を占めています。
カトリックの教えでは、結婚は1度すれば死ぬまでその相手と続くのが当たり前であるとされています。聖書(マタイによる福音書19章6節)にも「人は神が結び合わせたものを引き離してはならない」と示されており、離婚に対して非常に否定的です。
加えて、人工中絶や避妊に対しても厳しい立場をとっています。「結婚(子作り)とは神創造への協力」と考えられており、子供を産み増やすことが結婚の大きな目的です。
さらには人工中絶が法律で禁じられているため、フィリピンではシングルマザーや非嫡出子が多い傾向にあります。
フィリピンの社会は、カトリックの教えと深く結びついています。これらの宗教的な理由から、離婚は法律としても認められていません。
離婚の代わりにアナルメント制度がある
フィリピンには、離婚のシステム自体がありません。しかし、どうしても離婚せざるを得ない状況が発生したとき、離婚できないと困ってしまいます。
例えば、暴力などの支配による婚姻関係の場合、身体的・精神的な苦痛は計り知れません。身の安全を守る意味でも、相手と離れるのが妥当です。
そこで、上記の例のように一定の条件を満たす人は、離婚に代わる制度として「アナルメント(Annulment)」が認められています。
下記で詳しく見ていきましょう。
■ アナルメント制度(婚姻関係の無効化)とは
「アナルメント」とは、婚姻の取り消しまたは無効にする裁判上の手続きです。一般的にイメージされる離婚とは違い、婚姻関係そのものを初めからなかったことにできるのが特徴です。
手続きは、フィリピン国内の裁判所で行います。誰でも「アナルメント」の申請ができるわけではなく、厳しく設定された条件を満たしていなければなりません。
婚姻の取り消しなら「アナルメント」、無効なら「ディクラレイト」の判決が申請者の状況に応じて決定されます。判決までにかかる期間は、2〜3年です。申請者の状況によっては、さらに長い期間を要する可能性もあります。
申請できる条件は以下のとおりです。
・アナルメント(婚姻の取り消し)
- ・精神障害のある者との婚姻
- ・婚姻継続のための身体的能力を欠いた者との婚姻
- ・性病を音った者との婚姻
- ・詐欺による婚姻
- ・強迫による婚姻
- ・一定年齢での両親の承諾なしでの婚姻
・ディクラレイト(婚姻の無効)
- ・未成年同士の婚姻
- ・近親婚
- ・重婚や一夫多妻婚
- ・婚姻のために自己または相手の配偶者を殺害した
- ・相手方を錯誤した上での婚姻
- ・婚姻許可状なしでの婚姻
- ・婚姻挙行担当官不在での婚姻
- ・証人なしでの婚姻
・アナルメント制度にかかる費用
アナルメントの費用は高額で、最低でも30万ペソは必要と言われています。
1ペソは日本円で2〜2.5円のため、日本円に換算すると60〜75万円です。
国際労働機関(ILO)の統計データによると、フィリピンの平均年収は約23万ペソです。月収にすると、23万ペソ÷12カ月=約1.9万ペソの計算になります。
世界銀行の発表によると、2020年〜2021年のフィリピンは「低・中所得国」に分類されます。30万ペソという大金を用意できるのは一部の富裕層だけであり、一般市民には難しいのが現状です。
「アナルメント」の費用は平均年収よりもはるかに高い金額であり、フィリピン国民にとって身近な制度とは言えません。
費用の大半は弁護士への報酬ですが、中には必要以上の金額を要求してくる人もいます。費用に限らず、いい加減な仕事をしたり、無意味に裁判を長引かせたりするケースも多くあります。
「アナルメント」を成立させるには、信頼できる弁護士を探せるかが最大のポイントです。
フィリピン人と離婚するときに必要となる書類
国際結婚した夫婦が離婚をする際、双方の国に従った方法で手続きを行います。
日本人とフィリピン人の夫婦が離婚をする場合は、日本で手続きを済ませ、フィリピンで承認してもらうのが一般的です。
日本の通則法第27条(法の適用に関する通則法第27条)によると「夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは、離婚は、日本法による」と規定しています。つまり、夫婦が日本で生活をしていれば日本の法律が適用されます。
手続きの方法は、日本人同士の離婚と同じです。
1.協議離婚
話し合いにより双方の合意が得られれば、離婚が成立します。
2.調停離婚
話し合いで合意を得るのが難しい場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。調停委員が夫婦の間に入り、双方の意見をまとめ、合意に向けて調整する流れです。調停の結果、双方の合意を得て離婚が成立します。
3.裁判離婚
調停でも合意が得られない場合は、家庭裁判所に離婚訴訟を提起できます。誰でも訴えを起こせるわけではなく、法定離婚事由(不貞行為など)に該当しているのが条件です。判決で主張が認められれば、離婚が成立します。
あくまでも日本でのみ認められた離婚のため、フィリピンでは離婚が成立していない状態です。日本の法律に基づいて離婚が成立したあと、フィリピンの裁判所にて「リコグニッション(Recognition)」の手続きをしなければいけません。
「リコグニッション」とは、外国で成立した離婚をフィリピンでも承認する裁判です。この手続きをしないと、相手のフィリピン人は婚姻関係が続いているとみなされ、再婚ができなくなってしまいます。
日本での手続きの流れ
お住まいの地域を管轄している市区町村役場に、離婚届を提出してください。
協議・調停・裁判のいずれかの方法で、双方の合意が得られれば離婚が成立します。
・協議離婚
1.離婚に向けた話し合いで条件を決める
慰謝料・財産分与について話し合いを進めます。子供がいる場合は、親権・養育費・面会などについての話し合いも必要となります。
2.離婚協議書の作成
条件についての話し合いが決着したら、離婚協議書を作成します。
離婚協議書は、公正証書にすることも可能です。例えば、公正証書を作成すれば、養育費など合意した条件が履行されなかったときに強制執行ができます。
・離婚届の提出
証人2名の署名押印が必要です。証人は成人であれば誰でもなることができ、法的責任を問われることはありません。
・調停離婚
1.調停の申し立て
2.期日の調整
家庭裁判所から第1回の調停期日に関する調整の連絡があります。
3.期日通知書による通知
家庭裁判所から夫婦双方に呼出状が届きます。
4.調停(2〜4回ほど)
第1回目の調停は、申し立てから約1カ月後です。
5.調停が成立後、離婚届の提出
調停調書の交付申請をして受け取ります。成立から10日以内に、調停調書と離婚届を提出してください。
期間は3カ月〜6カ月ほどで、長期化すると1年以上かかります。
・裁判離婚
1.訴訟の提起
2.口頭弁論の期日指定
訴えが認められた場合は第1回口頭弁論の期日が通知され、被告側には呼出状が届きます。
3.被告からの反論を記した答弁書の提出
被告が訴状を受け取り、原告の主張に対する反論を記した答弁書を作成・提出します。
4.口頭弁論
口頭弁論は、訴状の提出から約1カ月後です。
5.判決
6.離婚届の提出
判決の確定後10日以内に、離婚届を提出してください。
期間は早ければ6カ月、長期化すれば数年はかかります。最高裁判所のデータ(人事訴訟事件の概況)によると、令和3年の離婚裁判における平均審理期間は14.1カ月でした。
フィリピンでの手続きの流れ
日本で離婚が成立したあとに、フィリピンで「リコグニッション」の手続きをしてください。
1.書類準備
「リコグニッション」に必要な書類については後述します。日本側の書類は、すべて英訳したものを用意してください。
2.外務省承認を受ける
日本国内で作成・発行された書類は、フィリピン大使館または領事館の認証が必要です。
3.離婚の承認裁判
フィリピンの裁判所にて「リコグニッション」の裁判をします。承認の判決が出るまでの期間は、通常6カ月〜1年です。
4.聴聞会に出席
2〜3回ほどです。
5.承認の判決
6.離婚判決の注釈を付ける手続き
判決後、マニラの民事登録局に以下の書類を提出し、民事登録書類に離婚判決の注釈を付けてもらいます。
- ・離婚の審判書またはマニラ市役所内民事登録局に登録された判決書
- ・地方裁判所の判決確定署
- ・地方裁判所の判決が地方民事登録局に登録されたことを示す証明書
7.マニラの総合民事登録局に注釈付きの書類を提出
上記の流れを経て、フィリピン側でも外国で成立した離婚が反映されます。
必要書類
ここでは、必要な書類について見ていきましょう。
協議離婚
- ・離婚届
- ・運転免許証・パスポートなどの本人確認書類
- ・日本籍の方:戸籍謄本
- ・フィリピン籍の方:外国人登録証明書
調停離婚
- ・離婚届
- ・調停調書の謄本
以下は、調停の申し立てに必要な書類です。
- ・夫婦関係調整調停の申立書
- ・戸籍全部事項証明書
- ・収入印紙
- ・切手
- ・進行に関する照会回答書
- ・事情説明書
- ・連絡先届出書
- ・陳述書
裁判離婚
- ・離婚届
- ・審判書謄本
- ・審判確定証明書
- ・判決書謄本・判決確定謄本(判決による離婚の場合)
- ・和解調書謄本・認諾調書謄本(和解による離婚の場合)
以下は、訴訟に必要な書類です。
- ・離婚裁判の訴状
- ・離婚調停不成立調書
- ・夫婦それぞれの戸籍謄本
- ・年金分割のための情報通知書
- ・源泉徴収票・預金通帳のコピーなど
離婚の承認裁判
「リコグニッション」に必要な書類は、以下のとおりです。
- ・戸籍謄本
- ・離婚の受理証明書
- ・離婚届の記載事項証明書
- ・日本の民法の抜粋
日本で作成・発行された書類は、書類に押印された日本外務省印や署名の認証が必要です。在日フィリピン大使館または領事館にて、認証手続きをしてください。日本語の書類は、すべて英訳したものを用意しましょう。
より詳しい書類については、依頼する現地の弁護士に確認すると安心です。
フィリピン人と離婚するときにかかる費用
ここでは、費用について見ていきましょう。
日本でかかる費用
自力で離婚の手続きを進めるか、弁護士に依頼するかで費用は大きく異なります。特に弁護士に依頼する場合は、高額な費用が必要です。
事務所によって対応はさまざまですが、一括での支払いが難しい方向けに、着手金の分割払いに応じてくれるケースもあります。加えて、法テラスによる弁護士費用の立替制度を利用する方法もあります。
弁護士を利用したいが資金面に不安のある方は、上記のような制度を利用するのがおすすめです。
調停離婚
かかる費用は以下のとおりです。
- ・申立書の手数料(収入印紙代):1,200円
- ・切手代:800円
- ・各種書類の取得費用:450円(戸籍謄本)・250円(住民票)など
- ・そのほか:1200円〜
ご自身で行う場合は、約4,000円でできます。
弁護士に依頼をする場合は、事務所によって価格帯は異なりますが50〜100万円は必要です。弁護士費用の内訳は、主に相談料・着手金・成功報酬などです。
裁判離婚
かかる費用は以下のとおりです。
- ・収入印紙代:13,000円〜
- ・切手代:約6,000円
- ・戸籍謄本の発行手数料:450円
- ・証人の日当・旅費
ご自身で行う場合は、約2万円でできます。
弁護士に依頼する場合は、調停離婚と同じく相談料・着手金・成功報酬などの支払いが発生するため、50〜100万円は必要です。
その他の費用
そのほかにかかる費用として、慰謝料や養育費などが挙げられます。
慰謝料の相場は離婚の事情によって異なりますが、50〜300万円程度に設定するのが一般的です。
例えば、不貞行為やDVなどに起因する離婚の場合は、慰謝料を請求できる可能性が高いです。一方、性格の不一致や価値観の違いなどを理由とした離婚の場合は、慰謝料が認められないケースもあります。
養育費は教育費・生活費・医療費・適度な娯楽費などで、子供の成長に伴う加算額も想定しておかなければいけません。特に決まった算出方法はありませんが、子供の年齢と人数・親の年収を基に金額が決められます。
フィリピンでかかる費用
日本で離婚が成立したら、フィリピンで離婚の承認裁判である「リコグニッション」をします。費用は、20〜30万ペソはかかると想定しておくと良いでしょう。1ペソが2円とすると、最低でも40〜60万円はかかる計算です。
裁判での手続きのため、費用の大半は弁護士への報酬です。高額な費用を払っても、いい加減な仕事をする弁護士も多くいるので注意してください。
異国の地で弁護士を探すのは難易度が高いですが、いかに優秀な弁護士を探せるかが裁判を成功させる大きな鍵と言えます。
まとめ
この記事では、フィリピン人と離婚するときに必要な書類と費用について解説しました。
フィリピンの社会は、キリスト教のカトリックの教えと深く結びついています。カトリックにとって結婚とは、一生続く神聖なものです。離婚に否定的なカトリックの影響から、フィリピンには離婚のシステムがありません。
外国人と結婚したフィリピン人は、外国の法律に基づいた方法で離婚ができます。日本人とフィリピン人の夫婦の場合、日本の法律に従った離婚が可能です。
協議・調停・裁判のいずれかの方法で離婚が成立したら、フィリピンで離婚の承認裁判である「リコグニッション」を行います。「リコグニッション」は費用や期間がかかることに加えて、現地の弁護士に依頼をしなければいけません。
日本でも弁護士に依頼する場合は、高額な費用が必要です。資金に余裕のない方は、法テラスなどを利用して負担を軽減する方法もあります。
日本での離婚手続きはご自身でも行えますが、人生を左右しかねない出来事のため、入念な準備が必要です。より確実に進めるためにも、離婚関連の事案に精通した弁護士に依頼するのをおすすめします。
【フィリピン婚姻無効裁判手続きサポートサービス】 報酬額一覧
婚姻無効裁判手続きサービス |
報酬額(円表示) |
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フィリピン人と日本人の婚姻無効裁判及びサポート |
当事務所の手数料 250,000+税 |
現地フィリピン弁護士手数料 着手金150,000ペソ(約40万円)+難易度により100,000~300,000ペソ(要お見積もり) |
|
フィリピン人同士の婚姻無効裁判及びサポート |
当事務所の手数料 300,000+税 |
現地フィリピン弁護士手数料 着手金150,000ペソ(約40万円)+難易度により100,000~300,000ペソ(要お見積もり) |
※裁判手続きは現地フィリピン弁護士による業務提供を行います。
【フィリピン婚姻無効裁判手続きサポートサービスの内容 】
- ・当事務所と連携しているフィリピン弁護士のご紹介&お顔合わせ※オンライン可
- ・フィリピン弁護士による現地裁判手続き
- ・裁判手続き完了までの現地フィリピン弁護士との英語での進捗確認
- ・業務完了までの英語通訳を伴う総合的なコンサルティング及びサポート
※極力スピーディーに手続きを進めますが、フィリピン婚姻無効裁判は着手から1年~2年かかる場合も発生します。当事務所の費用はその分のサポート費用です。
※ケースにより、裁判にかかる期間や費用が異なる場合がございます。現地フィリピン弁護士による裁判手続き開始前に改めてペソにてお見積りを出させていただきます。
※裁判期間の延長に伴う費用や実費(精神科医が配偶者様などに精神鑑定を行うための交通費または現地弁護士が当該地区の役所に赴く交通費等)は別途請求させていただきます。
【フィリピンでの婚姻無効裁判について】
フィリピンでは、法律上離婚それ自体を認めておらず、すでに婚姻歴のあるフィリピン人女性と結婚したいと考えたときは、現地の裁判手続きで婚姻が無効であったと認定してもらう必要があります。
この手続は、完了するまでに2年~3年を要する大変な手続きとなっており、フィリピンの現地弁護士や裁判所とのやり取りですので、日本におられる方にとっては非常に困難な道のりです。
そこで、弊社では現地のフィリピン人弁護士と連携し、基本的な連絡や進捗状況の確認等、細かいサポートを提供させていただきますので、現地裁判手続きの完了まで安心してご依頼いただくことが可能です。
この記事の監修者
プロフィール
2009年4月 行政書士個人事務所を開業
2012年8月 個人事務所を行政書士法人化し「さむらい行政書士法人」を設立
専門分野
外国人VISA・在留資格、外国人雇用・経営管理、永住・帰化申請
入管業務を専門とし、年間1000件以上の相談に対応
▼国際結婚手続き
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